2008年回顧

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 格差の広がりを背景に、境遇に強い不満を抱く若者らによる無差別殺人が続発した。
 茨城県土浦市と岡山市は駅が、東京・秋葉原は日曜の歩行者天国が凶行の場に一変した。秋葉原の事件は派遣社員の二十代の男に十七人が次々とダガーナイフなどで襲われるという最悪のケースとなった。
 犯行の残忍さとともに、世間を震撼(しんかん)させたのが、「誰でもよかった」といった動機の理不尽さだ。
 身勝手な暴走は若者だけにとどまらない。大阪では四十代の無職男が個室ビデオ店に放火し、十五人が犠牲に。さいたま市と東京で元厚生次官らが連続で殺傷された事件では四十代の無職男が「保健所に飼い犬を殺された仕返し」と供述し、心の闇をのぞかせた。
 いずれの犯人にも共通するのが、不安定な境遇と社会から孤立していることだ。ネット上では冗舌に自己表現できても、生身のコミュニケーションが不得手で、他者への共感能力が欠落している。
 非正規雇用など不安定就労の広がりは、職場の人間関係を分断し、疎外感を深める人も潜在的に増えている。
 人間関係の希薄化が進む風潮は、自殺者の増加と無関係ではない。硫化水素自殺はことし一千人を超えた。発生方法がインターネットで多数紹介されたことの影響が指摘されている。
 救助に入った家族や救急隊員が巻き添えで死傷する被害も多発し、ネットの功罪の「罪」が厳しく問われた。
 高齢者を狙った振り込め詐欺の被害もことしに入って急増した。手口は次々と変わる上に巧妙化している。犯罪に遭わないための情報を、確実に高齢者に届けることが大事だ。
 若者にとって、大麻が身近な存在になっていることも世間にショックを与えた。薬物に対する抵抗感が薄らいでいることの警告だ。より早い段階から予防教育を講じる必要がある。

食の不信さらに

 産地偽装など、食への不信を高めるような事件はことしも絶えなかった。
 年明け早々、中国製冷凍ギョーザを食べた十人の中毒症状が発覚。捜査が進展しないまま、中国製冷凍インゲンや菓子類でも有害物質による汚染が広がった。
 中国産の売り上げ不振から、中国産ウナギを国内産と偽って大量に流通させる大掛かりな偽装が明るみになった。産地証明書までが偽装され、消費者の表示への不信を増幅させた。
 「事故米」を食用に転売する不正も発覚、消費者の食に対する不安が一段と強まった。健康に直結する食品を扱う業者のモラルがあらためて問われている。
 将来への展望を描きにくい時代に、希望や自信をもたらしてくれたのがノーベル賞での日本人の活躍である。
 物理学賞に南部陽一郎、小林誠、益川敏英の三氏が、化学賞は下村脩氏が選ばれた。日本人四人の同時受賞という快挙は、世界に日本の科学力の高さを大いに示した。
 ことしはオリンピックイヤーでもあった。北京五輪の競泳男子平泳ぎでは、北島康介選手が連覇を達成。女子ソフトでは悲願の金メダルを獲得した。上野由岐子投手の力投に多くの国民が胸を熱くした。
 閉塞(へいそく)した社会の風向きを変えるのは、一人一人の心の持ち方だ。どんな状況下でもベストを尽くすことで道は開ける。そう信じたい。






2008年12月29日
高知新聞朝刊 社説

― posted by 大岩稔幸 at 09:42 am

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