新しい年、トラ年が明けた。「口あけて腹の底まで初笑い」(虚子)。元日をこんな調子で過ごすことができたら、「笑う門には福来たる」で穏やかで幸せな1年を迎えることができそうだ。
しかし社会や身の回りを見渡すと、笑ってばかりはいられない。笑いを忘れたような景気に、デフレが追い打ちをかける。収入の目減り、失業問題もある。そんな折、思い起こすのは昨年、本紙に載った「ぷかぷか人生」と題したサックス奏者、坂田明さんの一文。
バンド仲間と海外へ演奏旅行に出掛ける。ぼろぼろの会場。こんな対応があるのか、と怒りの声が上がる。坂田さんはこうたしなめたという。「こんな貧乏な国の人々がおれたちを呼んでくれて、音楽を聴こうとしてくれてんだよ。この人たちが呼んでくれなきゃ、ここには来られなかったんだぞ」
おんぼろ飛行機には「飛ぶだけで偉いじゃないか」。遅れて来た列車には「来るだけで偉いじゃないか」。虫がゾロゾロ出て来ると「虫も生きられない所じゃ、おれたちも死んじゃう」。心の持ち方一つで社会の景色は変わるというのが坂田流。
突き詰めると、苦しいこと悲しいことがあっても、生きているだけで偉いじゃないか、と考えることにも通じる。昔中国の王はこんな言葉を残した。「苟(まこと)に日に新たに、日々に新たにして、また日に新たなり」
日々に刷新があれば、1年はさらに輝いてくる。
高知新聞
小社会より
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