人類学とセックス



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 2009年はダーウィン生誕200年だった。ダーウィンは1859年、『種の起源』を出版し、1871年には『人間の進化と性淘汰』を著した。その中で、「これから 私達はいくつかの例において、闘いで他のオスを打ち負かすよりも、メスを魅了する力の方が重要であると云う事をみる。これは未だかつて予想も出来なかった」と書いている。その後の資本主義、帝国主義の中では、『種の起源』は弱肉強食で表きれる自然淘汰のみ強調されてきたが、近年は性淘汰について見直されている。人類学をその目で見ると、面白い世界が開けてくる。ここでヒトと、類人猿のチンパンジーとゴリラを比較してみる。

 チンパンジーとゴリラとヒトの性は、婚姻パターンの違いで、それぞれ乱婚、ハーレム、一夫一婦性である。ヒトの性は、どちらかといえば生殖よりも快楽の方が主になっているが、元来、動物にとっては子孫を残す行為である。多くの動物でメスをめぐる争いは熾烈であり、しばしば死も伴う。

 その点では、チンパンジーの乱婚も優れたシステムであろう。発情期にあるメスは、排卵を示すシグナル(真っ赤になった性皮)をお尻に表し、それを見てエキサイトしたそのグループのオス全部と関係を結ぶ。1回の妊娠のために多くの異なるオスと500〜1.000回交尾をするともいわれ、オスたちは順番待ちをしてでも、それに及ぶとのことである。メスを独占しようとするからオス同士の争いが生じるので、それがなければグループ全体で仲良くできる。しかし、その中にも自分の子を残す競争はある。チンパンジーは乱婚社会といってもボスはいる。ボスの役割はグループ内の秩序を保つとともに、他グループに対して、縄張りの確保をすることである。権力を有するボスは、他のオスよりも、多くの子どもを残すのも事実である。

 男性性器の形態で言えば、チンパンジーの睾丸は体重比で大きく、精子を沢山つくることができる。オスのヒツジは一日に20〜40回の射精が可能というが、睾丸が大きいチンパンジーのオスも精力的で1時間に1回、5回しても貯蔵精液の半分は残るときれる。一方ヒトも体重比で睾丸が大きい方だが、一日、6回も射精すると貯蔵精液は枯渇してしまう。
 チンパンジーのペニスは細いが長い、しかも陰茎骨まで持つ。オスもメスも多くを相手にしなければならないので、性交時間は短い。しかし、より粘性が高い精液を、短時間に大量に奥まで確実に送れるオスが、自らの子孫を残す確率が高くなる。

 一方、ボスのゴリラはハーレムの主であり、グループ内に競争相手もいないので、睾丸もペニスも小さくてすむ。メスは発情のシグナルをわずかしか示さず、発情期のみしか性交はしないが、効率的に子どもをつくることができる。とは言っても、一日に2〜3回、1回の妊娠に対して20〜30回交尾するといわれる。ハーレム内でもときどき政権交代があり、新しいハーレムの主は前のボスの子どもを殺すことでメスの発情を促し、自分の子どもを残すメスは一生に一度は子殺しに遭遇するためか、次期ボス候補を含めた劣位のオスとの浮気も行う。これも子殺しを避ける保険であろう。

 18世紀初頭、888人の子どもをつくったモロッコの王様は例外中の例外として、ヒトは“原則的”に一夫一婦制である。個々のケースでは、乱婚型もハーレム型もありそうな感じではあるが・・・。

 ヒト以外の霊長類は性交後、何気ない様子で行動することから、オーガズムが無いという説もあったが(デズモンド・モリス;裸のサル)、今は否定的である。

 オスのオーガズムは射精に伴う反応で性的快楽をもたらし、繁殖行動を強めることになったという。これは納得できる説明である。メスのオーガズムについてもいくつかの説がある。女性のオーガズムは男性とは違った適応の結果という。一つはオスによる子殺しへの対応という説である。

 前述したように、ライオンやゴリラで見られるが、オスは一般に自分と交尾しなかったメスの子を殺し、その行為によってメスを発情させ、自分の子孫を残す。もし、性的快楽という確実な報酬、オーガズムがあれば、多くの交尾を求めるメスは、子殺しのオスからうまく逃れることができる。射精で終わってしまうオスとは違い、長い不応期がなく、何度も繰り返しオーガズムを得る能力のあるメスは、多くの子どもを残すことになる。また別の説では、パートナー選択の適応結果だという。男女間の性行為が、必ずしも女性にオーガズムをもたらすものでもない。しかし、自分に十分なサ−ビスと、性的な快楽をもたらしてくれる恋人はよきパートナーとなり、熱心な父親になるという訳である。

 チンパンジーもゴリラも、主に草食であり、授乳期が過ぎれば、生まれた子どもは自分で食料を見つけて食べる。その点、何でも食べるヒトは違う。ヒトの祖先はもともと樹上生活をするサルである。そのため一回の出産でだいたい子供は一人であり、育児に十分手をかけることができるが、そうでなければ育たない。その後、雨季と乾季のある熱帯サバンナで生活するようになったが、そこはライオンなどの捕食ものの危険が多く、食料確保も困難だったはずである。

 ここで草食から肉食もするようになったとされる。当初は他の肉食動物の食べ残しをあさることから始まるが、道具の使用で次第に自ら狩りができるようになった。また、植物の根など、繊維性の食料を摂っていたが、肉食や道具の使用、さらには火の使用による調理法の変化で、柔らかい食料が多くなった。それにより、頭部を締め付けていた咬筋に変化が生じて小さくなり、脳の発育を促した。

 複雑な生活を営むには、子どもには15年以上に及ぶ養育や教育が必要となり、子どもを自立させるには夫婦の強い絆も必要となった。それには、性が大きな役割を果たし、他の霊長類にない性行動を身につけることになった。性交のほかに、キス、ペッティングはもちろん、裸の皮膚は性感を高めるため体毛を失ったという。授乳器官の乳房も性器宮となり、対面性交することでお互いのコミュニケーションを深めることができる。ゴリラの眼球が黒いが、ヒトは白くなり、お互いに見つめ合うことで意思の疎通さえできるようになった。

 さらに興味深いのは、睾丸がチンパンジーより小さいけれども体重比では大きく、ペニスも大きく太い。それで女性を満足きせ、他の男性に走らないようにずる。メスに性のシグナルが明らかにあれば、オスはその受胎期だけ相手して、他の期間は他のメスに移ることもある。
 ヒトの先祖が発情期を隠すようになったことが、自分の子どもを得るためには、いつも性的関係を維持しなければならず、長期の関係(家庭)をもたらしたと考えられる。

 また、肉体的に劣るヒトが狩人として生活していくためには、オス同士の協力がなければ獲物は得られない。ボスがメスを独占すれば協力は得られないので、この点からもー夫一婦制は必然である。
ただ、ヒトの一夫一婦制にも「マイホームバパ説」と「たくさんのパパ説」という考えがある。前説では、男性が家族に愛情を持ち、食料を運ぶことで確実に子孫を残すことができたであろう。しかし、夫婦間の強い結びつきが必要だとしても、狩猟による事故や戦いや飢餓などは日常の事であり、子どもが成人するまでに父親が亡くなることも多かったはずである。後説では、一人の父親の子どもを持つより、複数のDNAを入れること、つまり父親の違うことで多様性に富んだ強い子どもをつくることができたとも考えられる。また、子どもの親は‘誰か’という、母だけが知る事実もあるため、心当たりのある男性は本当の父親ではないにしても、子どもの母親を援助することになる。そのためか女性の方からの浮気も多かったはずで、これもまた保険という意味合いがある。

 その例として、南米先住民、アチェ族の話がある。1974年、初めて文明人(?)に接した彼らの40%が免疫を持たないために、感染症で死亡したという不幸な歴史を持つ。男の間では、こん棒での戦争は細野捜索事や多くの未亡人が発生する。正式の結婚制度ではないが、2人以上のパートナーを持つ一夫多妻の社会ともいえる。しかし、父を持つ子どもは86%が育ち、父がない子は50%以下の生存である。このような社令では厳格を一夫一婦制は成立しないであろう。

 また離婚は結婚4年目が−番多いという、ある研究がある。その説明では、結婚1年目は相手に夢中であるが、やがて子どもが誕生する。授乳期には夫の協力がなければ生活ができない。しかし、歩き、話すことができる3歳になれば手がかからないようになり、母系社会では親族の誰かが面倒をみてくれるようになる。それまで頼りきっでいた夫だけでなく、他の男性にも目が向くようになり、結果として、環境の変化に強い子どもが得られる確率が高くなるという説明である。一生、同じペアを組む白鳥のような例もあるが、多くの鳥類は1年で子育てを終え、翌年には新たなべア形成をする。つまり、結婚は1年契約である。ヒトも4年契約みたいな遺伝子がヒトの中にあるのかもしれない。

 現代社会ではどうだろうか? 毎月、決まった額の御亭主だけからの給料だけでは生活が賄えない。そこで、ちょっと不倫をすることで、ボーナスを手に入れることができる。このような例は人類誕生までさかのぼって存在するように思える。

 1980年代、英国の婚外子は4%程度と推定されていた。

 現在でも子どもと父親のDNA不一致率が30%を超える部族もある。ある意味、もともと、私たちには不倫するDNAが組み込まれているのかもしれない。しかし、何と言っても、一夫一婦制の強い絆が、長い養育期間、家族に食事を与え、子どもを教育し、結果としてヒトをつくったのである。

 ちなみに、オスとメスが仲良く協力してヒナを育てるツバメでさえ、ペア外交尾の子どもの比率は26%にもなるそうである。

 チンパンジーの中でも、人間の音声言語を理解し、ヒトに次いで知的といわれるボノボチンパンジーは性をコミュケーションの手段にすることで暴力のない社会をつくっている。さまざまな体位でいろいろな相手ともセックスを楽しむ。このようなことを両性とも日に数十回も行うそうである。ヒトにおいても、性を間において夫婦が強く結び付き、子どもを育て、一方では不倫することで多様を子孫をつくる。どちらが原因でどちらが結果ともいえないが、婚姻の形態が変化し、性行動も変化してきた。

 いずれにせよ、ダーウィンのいう“自然淘汰”“性淘汰”の課程がホモサピエンスを誕生させた。全人類が自由に結婚できる現在、もうヒトには自然淘汰による進化はないのであろうか? DNAの変化の可能性について考えられるのはHIVがまん延している南部アフリカでHIVに強い遺伝子の出現。また逆に、文明の進んだ先進国ではヒトにとって不利な突然変異の遺伝子の蓄積が当然考えられる。

 一方、近年、遺伝子工学の進歩はめざましく、病気または不利な遺伝子治療は、受精卵の操作におよび、一歩進めば、許きれないデザインベビーの誕生を見るかもしれず、こうなると“進化”という問題ではなくなってしまう。











大塚薬報 2010/No.656

― posted by 大岩稔幸 at 01:08 am

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