おしぼりうどん

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長野県の北部に位置する坂城(さかき)町は、葛尾(かつらお)山や五里ヶ峰、鏡台山などを背景に、中心部を千曲川が貫いて流れる静かな里である。

この地には「信州の伝統野菜」にも認定された珍しい野菜がある。「ねずみ大根」。収穫は11月から12月。下膨れの短い形状で、細長い尻尾が付いている様から、その名が付けられたという。すこぶる辛みの強い大根である。この絞り汁に茹でたうどんをつけて食す。400年ほど前からの郷土食は、初めて遭遇した者にいかなる感慨をもたらすか。

信州は山の国である。日本海に近ければ北海道あたりから運ばれてくる昆布でだし汁を取っただろう。太平洋に近ければ、黒潮に乗って北上する鰹を元に、鰹節でだし汁をこしらえもしただろう。

流通網の整備された現在なら訳もないことだが、江戸時代にあっては、信州・坂城は海の幸に頼るすべがなかった。そこで考えついたのが、ねずみ大根を搾った汁につけて食べる方法だった。

唐辛子系の辛さならまさしくホット、熱い辛みが舌の上、口の中を炎の原に変えていくが、ねずみ大根の絞り汁の辛さはタイプがまったく異なる。

ひんやりとした白い静寂の刹那に包まれたあと、首の後ろから頸椎をさかのぼって、頭のてっぺんから天井に向かって極めてクールな、氷の微笑をたたえつつ、冷たくもしびれるほどに辛いという目くるめく味わいを体験する。

しかし、一度味わってしまえば、天に通じる未知なる辛みはクセになる。最後の最後には隠れた甘みが感じられる。この味を地元では「あまもっくら」と表現するらしい。

味噌を入れれば一躍マイルドに変貌。これはこれで美味なのだが、やはり、最初は味噌なしで食べてみたい。

俳人・松尾芭蕉はこんな句を残している。
「身にしみて 大根辛し 秋の風」

先人たちが生み出した「おしぼりうどん」の奥深さ。
クールな辛さがクセになる。


坂城町ホームページ
http://www.town.sakaki.nagano.jp/sightseeing/W004H0000007.html Link
おしぼりうどん
http://nezumi-daikon.com/modules/daikon_recipe/index.php?content_id=1 Link








SKYWARD
JAL機内誌 2010.11

― posted by 大岩稔幸 at 12:43 pm

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