おしぼりうどん

img110103033



長野県の北部に位置する坂城(さかき)町は、葛尾(かつらお)山や五里ヶ峰、鏡台山などを背景に、中心部を千曲川が貫いて流れる静かな里である。

この地には「信州の伝統野菜」にも認定された珍しい野菜がある。「ねずみ大根」。収穫は11月から12月。下膨れの短い形状で、細長い尻尾が付いている様から、その名が付けられたという。すこぶる辛みの強い大根である。この絞り汁に茹でたうどんをつけて食す。400年ほど前からの郷土食は、初めて遭遇した者にいかなる感慨をもたらすか。

信州は山の国である。日本海に近ければ北海道あたりから運ばれてくる昆布でだし汁を取っただろう。太平洋に近ければ、黒潮に乗って北上する鰹を元に、鰹節でだし汁をこしらえもしただろう。

流通網の整備された現在なら訳もないことだが、江戸時代にあっては、信州・坂城は海の幸に頼るすべがなかった。そこで考えついたのが、ねずみ大根を搾った汁につけて食べる方法だった。

唐辛子系の辛さならまさしくホット、熱い辛みが舌の上、口の中を炎の原に変えていくが、ねずみ大根の絞り汁の辛さはタイプがまったく異なる。

ひんやりとした白い静寂の刹那に包まれたあと、首の後ろから頸椎をさかのぼって、頭のてっぺんから天井に向かって極めてクールな、氷の微笑をたたえつつ、冷たくもしびれるほどに辛いという目くるめく味わいを体験する。

しかし、一度味わってしまえば、天に通じる未知なる辛みはクセになる。最後の最後には隠れた甘みが感じられる。この味を地元では「あまもっくら」と表現するらしい。

味噌を入れれば一躍マイルドに変貌。これはこれで美味なのだが、やはり、最初は味噌なしで食べてみたい。

俳人・松尾芭蕉はこんな句を残している。
「身にしみて 大根辛し 秋の風」

先人たちが生み出した「おしぼりうどん」の奥深さ。
クールな辛さがクセになる。


坂城町ホームページ
http://www.town.sakaki.nagano.jp/sightseeing/W004H0000007.html Link
おしぼりうどん
http://nezumi-daikon.com/modules/daikon_recipe/index.php?content_id=1 Link








SKYWARD
JAL機内誌 2010.11

― posted by 大岩稔幸 at 12:43 pm

謹賀新年2011

NONALNUM-CEBDD0

卯(う)の年が明けた。年年歳歳というけれど、またいつもの年の暮れがあったし、またいつものお正月が巡ってきた。

年越し、年明けに人は何かを思う。それぞれの家がそれぞれの流儀で行事を行い、きょうの日を迎える。人はなぜこのように、毎年同じことを繰り返すのか。明治の文豪・幸田露伴が、面白いことを書いている。

「一年に四季があってひと巡りして来たところで、樹木も年輪というものが出来るのである」。だから年ごとに重ねるはずの年輪がぼんやりすると、妙に締まらない。「竹に節が無く、網に結び目の緩いようなもの」になる。

そこでこの博覧強記の文豪は、「年の関」というものを仮定する。そしてその関へかかった時に、「一寸思い入れがあって関門を通った方が面白そうだ」(「新年言志という事について」)。一年の計は元旦にあり、というやつだ。

大きな計画、高い目標を掲げるのもよろしかろう。神社にお参りに行って、「無病息災、家内安全」と地道な願い事をすることだって、立派な新年の思い入れだ。政治も経済も社会も、めまぐるしく移り変わる時代。予想を超えたことも起きるだろう。

〈初夢や 金も拾はず 死にもせず〉。夏目漱石のとぼけた句だ。平々凡々何事もないが、命のあることに感謝する。新年早々景気のいい話にはならなかったが、この句の心境が案外、庶民の心を言い当てている気もする。






高知新聞 小社会
2011.01.01

― posted by 大岩稔幸 at 12:04 am

<< 2011.1 >>
SMTWTFS
      1
2 3 45678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
 

T: Y: ALL: Online:
ThemeSwitch
Created in 0.0090 sec.