平成の大合併で自治体病院はどうなる?
平成の大合併も、行財政面での支援などが2005年3月31日までに合併が完了した場合に行うと定められていたため、既に一段落しシーズンオフとなっています。
おさらいをしておきますと、平成の大合併とは、総務省が中心になって進めている市町村再編政策、市町村合併のことです。1950年代に進められた「昭和の大合併」にちなんで、今回は「平成の大合併」と呼ばれています。
この大合併の狙いは、市町村の合併を進め大規模化することで、地方財政基盤の強化と効率化を進めるところにあります。その政策推進のため、市町村合併特例法の改正(1995年)によって、合併特例(合併後の財政支援など)が2005年までの時限立法として強化されました。地方の財政基盤の強化と効率化といえば、自治体病院も大きな論点にならざるを得ません。自治体病院は、赤字経営とスタッフ確保に頭を悩ませなければならない地方自治体の「鬼門」であるとともに、地方の生活基盤、ライフラインといった死守ラインの一部でもあるからです。
民間移譲が合併の前提条件
今回は、平成の大合併に見られた自治体病院や地方自治体の動きを、具体的なケースで振り返ってみたいと思います。
まず統廃合というより、民間移譲のパターンです。新潟市に編入された巻町では、2003年度末で約31億4000万円の累積損失を抱える町立病院の民間譲渡が合併の条件とされたため、引き受け手を公募し民間移譲となりました。大分市と合併した旧佐賀関町も、大分市が「町立病院を市立病院にしない」との合併条件を提示したため、佐賀関町は町立病院を合併前に民間へ譲渡しました。大が小を飲む形の前に、小さい方の病院を民間移譲する形の損切りを条件に市町村合併の合意を形成したケースです。先般財政破たんした夕張市はとどのつまりで、市立病院の実質診療所化、公設民管を決意しましたが、このように市町村合併前にちゃんと破たん予防をするところもあるわけです。
役割明確化で公立病院を存続目指すケースも
もちろん、赤字でも公立病院として残せる場合は、残したいという地域のニーズもあるでしょう。山口県の旧光市と旧大和町の2004年度の合併は、がんばって2病院を残したケースです。2病院とは、市立光総合病院(13科、210床)と同大和総合病院(12科、280床)で、共に患者数の減少などで収益が伸び悩んでおり、市の病院事業会計は、2005年3月末現在で9億6300万円の累積赤字を抱えていました。
新しい市の病院局の方針では、2病院とも存続させた上で、次のような中期経営計画を立て経営の効率化を図ることを決めました。老朽化した光総合病院を移転新築し、救急患者への対応や高度医療を担う急性期病院とする一方、大和総合病院は、長期入院やリハビリを中心とした慢性期(療養病床)病院とする。光総合病院の移転先は市中心部に新築し、大和総合病院が行っていた救急医療も担うため、250床程度に規模を拡大する。大和総合病院は、療養型病床の環境整備のため6人部屋を4人部屋にし、230床程度に縮小する。
このような医療供給体制の効率化や療養環境整備で患者増、経営改善を目指すわけですが、新病院建設には100億〜150億円の事業費が必要とのこと。従来の起債残高(2005年3月末現在)は、光総合病院が16億8000万円、大和総合病院は30億円でしたが、これにさらに建設資金を投入していくわけで、一つ間違うと新地方自治体にとって大きな時限爆弾となりかねません。
要は「箱物」でなくマンパワーがカギ
こんなケースもあります。当地石狩平野の北に位置する奈井江町は、町立病院が約10キロ離れた地域の中核病院である砂川市立病院と連携する協定を結びました。これは、市町村合併をしなかった同町が合併を目指す他市町村との広域連携の一環で、医療・福祉のエキスパートとして有名な北町長は「連携の実績を積み重ねていけば住民らの一体感も生まれる。それから合併しても遅くない」というお見合い路線であることを隠しません。
人生いろいろ、地方も、地域医療もいろいろです。高知や岩手のように県立病院と市立病院の統廃合といった形まであり、自治体合併を超えた地域医療最後の生き残り策として自治体病院の再編成が真っ最中です。住民も医療者もまさに足下からやり方を考えなければならない時代です。
そして、そのキーポイントは、箱物にうん億かけるのもそれはそれで必要な場合もありますが、マンパワーです。本当に地域のために、住民のために汗のかける環境を設定できなければ、医者をはじめとして医療者は寄りつきません。高度成長期、バブル期の箱物主義、重厚長大路線でなく、本当にサステナブル(維持可能)なシステム作り、コンテンツの工夫が最大の課題となっていることに気付く必要があります。
竹中郁夫の「時流を読む」
日経メディカルブログ
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