現代を代表するイギリスの劇作家、アーノルド・ウェスカーの代表作の一つで、日本での初演時は「調理場」という題名だった。それが、蜷川幸雄の演出で「キッチン」と名前を変え、イケメンの若者たちが大勢出演し、あっという間にチケットが売り切れ、内容も話題になった。
芝居の内容はタイトルのままに、巨大なレストランのキッチンで繰り広げられる人間模様を措いたものだ。30人を超える登場人物。聞き取りにくいほどの速さで飛び交う科白。若者から中年まで、国籍の違う人びとや年代の違う男女がぶつかり、摩擦を起こし、キッチン全体が生き物のように躍動する中で起きる人間ドラマを描いている。
成宮寛貴はこの作品の主役であるベーターを演じた。キッチンでの役割は「蒸し係」。スピード感のある演技が好感を持って迎えられた。テレビの「仮面ライダー」シリーズで人気が出てからは破竹の勢いで映画やテレビに活躍しているが、彼の舞台はテンポがいい。他の舞台で演出家の蜷川に鍛えられたのが大きいが、単に二枚目だけではなく、芝居全体のテンポを創るムードメーカーの役割を持ったベーターという役を若さで演じ切った。
群衆が科白を速射砲のように交わす芝居は、蜷川演出の自家薬寵とするところだが、その中でも主役の持つ「オーラ」を放って生き生きと躍動していたのが彼の好演につながったと言えよう。
爆発するような感情の奔流を科白と動きで表現する。こういう芝居は、ベテランではなく、今が旬の役者でなくては役にはまらないものだ。演技の巧拙の点で言えば、無論完璧とは言えない部分はある。しかし、この手ごわい芝居の主役を演じおおせたことが、彼の役者としての大きな記念と、次へのステップになったであろうことは間違いない。
役者が成長するには、「良い作品」にめぐり合うことが一番だ。そういう意味で、彼は順調に舞台での道を歩んでいる。その強みを活かすことだ。
大塚薬報 2007/No.623
3月号
イケメン5人衆
成宮寛貴
Comments