この4月から介護保険の認定の方法がかわりました。変更された内容が明らかになると、多くの利用者やその家族、介護関係の団体、施設の事業者などから 「高齢者介護の生活実態に即した改定とはいえない」という不安や不満、怒りの声が上がりました
その波紋の広がりに厚生労働省は施行直前の3月24日、新しい調査基準の一部見直しを発表しましたが 「修正は表現を変えただけで不十分」と批判の声はおさまらず、導入してわずか数日で「経過措置」という異例の対策を講ずる羽目になっています。
政府は「介護給付の適正化」により介護保険の信頼性を高め持続可能な介護保険制度制度を構築していく」と説明してきました。政府のいう「介護給付の適正化」とは「不適切な給付を削減し、適切なサービスを確保する」となっています。
しかし先ごろ共産党小池議員が入手し発表した厚生労働省の内部文書により、国の狙いが「適切なサービスの確保」ではなく「要介護認定調査の変更」による給付費の削減だったことが裏付けられました。
公表された内部資料(要介護認定平成21年度制度改正案)には要支援2と要介護1の認定の割合が 「当初想定していた割合7対3にならず5対5になっている」として、要支援2と要介護1の割合が想定していた7対3になるように軽度の人を増やす方針が明記されています。認定度がかるくなれば給付の削減につながることは明らかです。
次に要介護認定の度合いを軽くする仕組みについて解説します。
ひとつは調査員が申請者に聞く調査項目を82項目から74項目に減らして介護度が軽く出るようにしたことです。
以前から1次判定では認知症の人が軽く判定される傾向にあると云われてきましたが、今回の改定ではそれがますます顕著になっています。
削除された項目に「火の始末」があります。これは命にかかわり、近所の住民に不安を与え、家族には目の離せない行為です。
「幻視・幻聴」によって夜中の徘徊行為も生じます。水分補給も命にかかわります。「飲水」もなくてはならない項目です。削減された項目はいずれも2次判定で重視されてきた項目ばかりです。
二つめは聞き取り調査の判断基準です。これも変えられました。たとえば寝たきりのため「移動」や「移乗」のできない人は「介助されていない」にチェックが入ります。薬の服用では、3月までは飲む時間を忘れたり、飲む量が分からない人は「全介助」でした。4月からは「適切に薬を飲めていない」場合でも 「介助されていない」です。
今回の判定基準の変更には、調査にたずさわる専門家のみなさんから「これでは申請者の実態が反映されない」と批判の声があがっています。
三つ目は審査委員会の権限の問題です。介護サービスを利用するためには市町村の担当窓口に申請します。調査員による聞き取り調査を受けます。その結果をコンピューターに入力します。これが1次判定です。
次に保健・医療・福祉の専門家3人以上で構成する介護認定審査会が、1次判定に基づいて訪問調査員の特記事項と主治医の意見書を加え、申請者の生活の全体像を把握し判定します。これが2次判定です。
この二つの段階を経てサービスが利用できるようになります。
この2次判定は「1次判定を修正・確定し、必要に応じて1次判定の変更を行う」ことのできる唯一の場です。3月までは審査会の2次判定で要支援・要介護に振り分けていた作業が、要支援2と要介護1の割合が想定していた7対3にならない原因は介護認定審査会にあるとして、今回の改定から判定作業をコンピューターに任すなど審査委員会の権限が大幅に引き下げられました。
適正化と称して介護給付を削減し、これが世論の追求にあい「経過措置」をとらざるを得ない始末になっています。介護保険制度をコンピューター任せにせず、利用者やその家族の介護と生活の状況に合わせて十分に介護が行き届く制度にしていかねばなりません。
おかしいと思ったら黙っていないで声を上げていくことが大切です。「適正化」などという大本営発表のような言葉に騙されてはいけない。
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